僧帽筋はなぜ肩こり筋なのか

からだのしくみ

肩こりは、人類の宿命でしょうか?

それとも、私たちが自らつくりだした生活の産物でしょうか。

たとえば――
「手があかない」「手を広げすぎ」「手こずる」。
日常で何気なく使う言葉の背景には、実は肩や腕の「自由度」が隠れています。

ヒトは直立二足歩行を獲得したことで、両手を自由に使えるようになったと言われています。
あるいは、「両手を自由に使う」ために二足歩行へ進化した、とも考えられています。

どちらにせよ、両手の自由は人類進化の大きな転換点であり、社会や文化を築く力となりました。

しかしその一方で、両手の自由を支える僧帽筋には大きな負担がかかることになりました。
現代人が悩む肩こりは、その自由の代償として現れた現象でもあるのです。

ひとことで言うと:肩こりは「人類の設計 × 現代の生活習慣」で生まれる現象です。

両手を自由に動かす人物と、僧帽筋の上部・中部・下部を示した解剖図。肩こりの背景を示す図解

この記事でわかること

本記事では、次の4つの視点から「なぜ僧帽筋が肩こり筋なのか」をひも解きます。

  • 僧帽筋の進化的な背景
  • 「動かす」と「支える」が同居する特性
  • 現代生活(姿勢・視覚負荷)との関わり
  • ストレスに敏感な筋としての性質

最後には、肩こりを「人類の宿命」として受け入れるのではなく、
「両手の自由をどう活かすか」という前向きな問いにつなげていきます。


四足動物からサル、そしてヒトへ

僧帽筋は、もともと体幹を安定させる固定筋(支える筋肉)としての役割が強い筋でした。

  • 四足動物(例:犬)
    僧帽筋は肩甲骨を体幹につなぎとめ、前肢を動かす際の「土台」として働いていました。
    動かすよりも支える要素が中心だったのです。
  • サル類
    木登りやぶら下がり動作が増えると、肩甲骨の自由度を高める必要が出てきます。
    そこで僧帽筋の一部(特に上部)が発達し、可動性を補助する働きが強まっていきました。
  • ヒト
    二足歩行になり、腕が完全に自由になると、上部僧帽筋はさらに役割を拡大しました。
    本来「固定のための筋」だった僧帽筋の一部が、「頭を支えつつ肩を動かす」という二重の仕事を担うようになったのです。
犬、サル、ヒトの背面シルエットに描かれた僧帽筋の範囲比較。四足から二足歩行へ進化するにつれ、僧帽筋の形と役割が変化していることを示す図

まとめ:僧帽筋は「支える筋」としてのルーツを持ちながら、「動かす筋」としても働くようになった特別な筋です。帽筋は「支える筋」としてのルーツを持ちながら、「動かす筋」としても働くようになった特別な筋です。


可動筋と固定筋の同居

僧帽筋は、ひとつの筋の中に「動かす部分」と「支える部分」が同居している、特別な筋です。

ここで理解のカギになるのが、筋肉の「性格」です。

  • 速筋(そっきん)
    瞬発力に優れた筋肉。短距離走で一気に走り出すときや、肩をぐっとすくめるときに活躍します。
    → 長時間は持たないけれど、素早く大きな力を出すのが得意
  • 遅筋(ちきん)
    持久力に優れた筋肉。マラソンのように長く走り続けるときや、姿勢を保つときに働きます。
    → 大きな力は出せないけれど、休まず長く支えるのが得意

僧帽筋の中では、

  • 上部僧帽筋は速筋が多く、肩や首を動かす「動かす担当」。
  • 中部・下部僧帽筋は遅筋が多く、肩甲骨を安定させる「支える担当」。
僧帽筋の上部は赤色で示され速筋が多く瞬発的に働く。中下部は青色で示され遅筋が多く持久的に支える。右側にスプリンターとランナーのシルエットで速筋と遅筋の違いを示した図

実際に僧帽筋の部位ごとの筋線維組成を調べた研究でも、上部は速筋の比率が高く、中下部は遅筋の比率が高いことが報告されています(Lindmanら, 1990)。

ただし、この筋線維の構成には個人差もあり、少なくとも一部は遺伝的な要因による可能性が指摘されています。
それでも大まかな傾向として「上部は動かしやすく、中下部は支えやすい」という性質は多くの人に共通していると考えられます。

つまり僧帽筋には「動かす担当」と「支える担当」が同居しているのです。
この二面性は、人類が進化の過程で両手の自由を得たことの表れでもあります。

まとめ:僧帽筋は「動かす」と「支える」の二役を同時にこなすため、バランスが崩れると負担が集中します。


現代生活でのギャップ

本来「肩を動かすための筋」である上部僧帽筋。
ところが現代人は、この筋肉を頭を支える固定筋として酷使しがちです。

その背景には「姿勢の癖」だけでなく、目の使い方があります。
スマホやパソコンを近くで見続けるとき、目はピントを合わせ、同時に寄り目になります。
ふだんはこの2つが連動していますが、長時間の作業では「ピント」と「寄り目」のバランスがずれてしまうことがあります。

すると脳は「視線を安定させよう」と無意識に努力し、その負担を首や肩にかけてしまいます。
結果として、僧帽筋が余計に力み、固定筋として働き続けるのです。

さらに研究では、近くを見る作業を続けると、時間の経過とともに僧帽筋の活動が増えていくことも示されています。
「目の疲れ」がそのまま「肩の疲れ」として波及するわけです。

今日からできる2つ

  • スマホや本は顔から30cm以上離す(腕一本分を目安)。
  • 1時間ごとに20秒、遠くを見てリセットする。

👉 日常生活でできる肩こりセルフケアについては、Yeji浦和公式ブログでも紹介しています。

👉 ビジョントレーニングについて詳しく知りたい方は[コチラ](一般社団法人
ビジョンアセスメント協会)へ。

まとめ:「目と首肩はチーム」。目が疲れると、肩が代わりにがんばってしまいます。


ストレスに敏感な筋としての僧帽筋

僧帽筋がストレスに敏感な理由のひとつは、副神経という特別な神経支配を受けていることです。
通常、腕や脚の筋肉は脊髄からの命令を受けて動きますが、僧帽筋は脳から直接つながる神経から命令を受けます。

そのため、心の状態やストレス反応と直結しやすく、緊張や不安を感じるときに無意識に肩をすくめたり、首すじが固まるのはその表れです。
実際に研究でも、人前で発表したり計算課題をするとき、上部僧帽筋の筋活動が高まることが報告されています(Lundbergら, 1994)。

つまり、

  • 姿勢の負荷(デスクワーク・スマホ)
  • 視覚の負荷(近見注視)
  • 心理的ストレス

これらが重なると、僧帽筋は最も緊張しやすくなります。

👉 心理的ストレスと肩こりの関係については、Yeji浦和公式ブログでも解説しています。

まとめ:肩こりは「体だけの問題」ではなく、心の状態ともつながっています。


肩こりは宿命ではなく

ここまで見てきたように、肩こりの背景には――

  • 僧帽筋という筋肉の進化的な構造
  • 現代生活に特有の姿勢や目の使い方
  • そして心理的ストレス

これらが複雑に重なり合っています。

つまり肩こりは「人類の宿命」ではなく、
私たちの生活習慣や心の持ち方が生み出している現象だといえるのです。

本来、上部僧帽筋は「肩を動かす筋」として設計され、
両手を自由に使っているときにはのびのびと働いています。
道具を使う、抱きしめる、つくり出す――
その自由こそが人類を人類たらしめてきましたと言ってもいいでしょう。

肩こりへの対処法は、その原因ごとに日常生活の中でさまざまな工夫をすることができます。

  • 筋肉の疲労をほぐす工夫
  • 目や姿勢をリセットする工夫
  • ストレスや緊張を和らげる工夫

一方で、僧帽筋の進化生物学的な観点から抽象的に肩こりを見つめ直したとき、こんな問いを立てることもできるでしょう。

あなたは今日、両手の自由をどう活かしますか?


※本記事は一般的な情報提供を目的としています。記載内容は学術的知見に基づいていますが、個々の症状に対する診断や治療を意図するものではありません。健康に不安がある場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。


📚 参考文献

  • Lindman R et al. Fiber type composition of the human trapezius muscle: enzyme-histochemical characteristics. Am J Anat. 1990;189(3):236–244.
  • Lundberg U et al. Psychophysiological stress and EMG activity of the trapezius muscle. Int J Behav Med. 1994;1(4):354–370.
  • Zetterberg C et al. Effects of visually demanding near work on trapezius muscle activity. J Electromyogr Kinesiol. 2013;23(5):1190–1198.
  • Richter HO et al. Trapezius muscle activity increases during near work activity regardless of accommodation/vergence demand level. Eur J Appl Physiol. 2015;115(7):1501–1512. doi:10.1007/s00421-015-3125-9.

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