「コリ」とは何か ― 局所の組織環境という視点 ―

鍼灸のはなし

※本記事は、Yeji公式ブログ
「鍼灸と“調節”の考え方」シリーズの一編です。


「コリ」は、誰もが知っているが、誰も説明できない

「肩がこる」
「首がこっている」
「ここ、コリがありますね」

私たちは日常的にこの言葉を使います。
患者さんとの会話でも、臨床の現場でも、
「コリ」はごく自然に通じる言葉です。

一方で、
この「コリ」が医学的に何を指しているのか
はっきり説明できるかというと、
実はとても曖昧です。

筋肉の緊張なのか。
血流の問題なのか。
神経の問題なのか。

どれも間違いではなさそうで、
どれもそれだけでは足りない。

ここに、
「コリ」という言葉の扱いにくさがあります。


触れるとわかる「状態」がある

それでも、
実際に身体に触れると、
多くの人が共通して感じ取るものがあります。

・硬さ
・張り
・動きにくさ
・滑りの悪さ
・触れると反応が集中する感じ

これらは、
診断名ではありません。
病名でもありません。

しかし、
確かに存在する「状態」です。

重要なのは、
それを何か一つの原因に
無理に当てはめないことです。


局所では、何が起きているのか

いわゆる「コリ」と呼ばれる部位では、
局所的にいくつかの変化が
同時に重なっていると考えられます。

たとえば、

・筋や筋膜の動きが滑らかでなくなる
・微小循環に偏りが生じる
・組織内の化学的な環境が変化する
・神経や筋の反応性が高まる

これらは、
独立して起きているわけではありません。

どれか一つが原因で、
他が結果、という単純な関係でもありません。

重なり合った状態として、
そこに存在している。

ここでは、
それらをまとめて
「局所の組織環境」と呼びます。

実際、筋筋膜痛やいわゆるトリガーポイントと呼ばれる部位では、
微小循環の変化や局所の代謝環境の変化、
神経関連物質の増加などが報告されています。


ただ「コッているところにやる」ことの意味

だからといって、
「コッているところに刺激を入れること」に
意味がないわけではありません。

むしろ、
それ自体に大きな意味がある場合もあります。

自分で
「ここがつらい」と感じている部位には、
注意や評価、身体感覚がすでに集まっています。

その場所に、
はっきりとした局所刺激が入ることは、
神経系にとって
意味のある出来事になります。

とくに筋や筋膜からの体性感覚入力には、
侵害受容に関わる感覚神経線維が多く含まれており、
局所刺激が身体感覚や反応の質に影響を与えることが
示唆されています。

そのため、
「鍼灸を受ける」という一連の流れの中で、
自覚されている局所に刺激が加わることは、
身体の感じ方や評価の前提条件に
影響を与える可能性があります。

「ただやっているだけ」に見える局所刺激も、
神経科学的に見れば、
決して単純な入力ではありません。


なぜ、人によって違うのか

同じように肩がこっていても、

・すぐに変化が出る人
・なかなか変わらない人

がいます。

これは、
技術の優劣だけで説明できるものではありません。

・問題が比較的シンプルな場合
・背景となる条件が少ない場合

こうしたケースでは、
局所への介入だけで
変化が起こりやすいことがあります。

一方で、

・経過が長い
・複数の条件が重なっている
・身体全体の反応性が変わっている

こうした場合には、
局所だけを見ても、
結果が揃わないことがあります。

近年は、
局所の組織環境と神経系の反応性が
相互に影響し合うことで、
痛みや違和感が持続・拡大する可能性も
指摘されています。

違いを生んでいるのは、
「コリ」そのものではなく、
その状態がどのような構造で成り立っているか

という点です。

この「問題の構造」という考え方については、
別の記事で、もう少し詳しく整理しています。


だから「見立て」が必要になる

原因を一つに決められない状態であれば、
どう理解し、
どう関わるかを
その都度考えていく必要があります。

「ここが硬いから、ここが悪い」
と即座に決めてしまえば、
施術はわかりやすくなります。

しかし、
それでは対応しきれないケースが
確実に存在します。

局所の状態を、

・仮にこうかもしれないと捉え
・介入による反応を見て
・必要に応じて見直す

この繰り返しが、
臨床では重要になります。

コリを
一つの原因として固定しない。
状態として扱い続ける。

そのために、
「見立て」が必要になります。


まとめ

・「コリ」は病名ではない
・原因を一つに決められない状態である
・筋、循環、神経、化学的環境が重なっている
・局所刺激そのものにも意味はある
・違いを生むのは、問題の構造
・だからこそ、見立てが重要になる

「コリ」という言葉を、
雑に使わない。

それだけで、
身体の見え方は大きく変わります。


これらの考え方は、
「介入とは何か」という視点に集約されます

鍼灸における介入とは


補足:参考文献について

本記事で述べた「局所の組織環境」という視点は、
筋・筋膜の力学的変化、微小循環、局所の生化学的環境、
神経の反応性が相互に影響し合う状態として、
近年の研究でも整理されています。

以下は、その理解を深めるための
オープンアクセス文献です。

  • Puntillo F, et al. Pathophysiology of musculoskeletal pain: a narrative review. Ther Adv Musculoskelet Dis. 2021.
  • Gerdle B, et al. Chronic musculoskeletal pain: review of mechanisms and biochemical biomarkers assessed by microdialysis. J Pain Res. 2014.
  • Dommerholt J, et al. Trigger point dry needling within a pain neuroscience paradigm. J Pain Res. 2018.
  • Stecco C, et al. Fascial innervation: a systematic review. Clin Anat. 2014.

※本記事は、身体の状態や鍼灸に関する一般的な考え方を紹介するものであり、
特定の症状や疾患に対する治療効果を保証するものではありません。
症状が強い場合や医療機関での診断・治療が必要な場合は、
適切な医療機関へご相談ください。

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