身体の「コリ」とは何か──筋肉の硬さだけでは説明できない状態

鍼灸のはなし

「コリ」とは、単に筋肉が硬くなったことだけを指す言葉ではありません。

肩や首で感じる硬さ、張り、重さは、測定できる筋肉の硬さと必ずしも一致しません。筋肉や周囲の組織、局所の代謝環境、刺激を受け取る神経系など、複数の側面から捉える必要があります。

これは、複数の研究が「コリ」を一つの状態として直接定義している、という意味ではありません。各研究が示す知見をもとに、Yejiが身体の状態を捉えるための枠組みとして整理したものです。[1][2][3][4]

この記事では、身体の「コリ」とは何か、なぜ人によって感じ方や変わり方が違うのかを、筋肉、周囲組織、局所の代謝環境、神経の反応という視点から整理します。

※本記事は、Yeji公式ブログ
「鍼灸と“調節”の考え方」シリーズの一編です。


身体の「コリ」とは、どんな状態か

「肩がこる」

「首にコリがある」

「触ると硬いところがある」

私たちは日常的に「コリ」という言葉を使います。

しかし、コリは特定の組織や病気を示す医学用語ではありません。

一般には、硬い、張っている、重い、動かしにくい、押されると痛い、触ると周囲と違う、といった感覚や状態をまとめて「コリ」と表現しています。

つまりコリとは、一つの原因や一つの組織を指す言葉ではなく、身体の一部に生じている複数の変化を、私たちが硬さや重さとして捉えたもの、と考えることができます。

コリは、筋肉の硬さだけでは説明できない

コリを感じる場所では、いくつかの側面を分けて考える必要があります。

筋肉の緊張

同じ姿勢や動作が続くと、一部の筋肉が長く働き続けることがあります。そうした状態は、張りや疲労感と関係することがあります。

ただし、これだけで「コリ」の原因全体を説明できるわけではありません。

筋膜などの周囲組織

筋肉の周囲には、筋膜などの結合組織があります。

筋膜などの結合組織にも感覚神経が分布しており、身体の位置感覚や痛みの受け取りに関わる可能性があります。[2]

ただし、触れたときの硬さや引っかかりが、筋膜の状態だけで決まるわけではありません。筋膜の滑走の変化から、硬さや引っかかりの知覚へ直接つなげて説明することはできません。

局所の代謝環境と血流

慢性的な筋痛がある部位では、筋肉内の代謝物や痛みに関係する物質に違いが報告されています。[1]

一方で、血流との関係は研究によって一貫していません。また、慢性筋痛の研究結果を、日常語としての「コリ」すべてにそのまま当てはめることはできません。

神経の反応

本人が感じる硬さや痛みと、測定された筋肉の硬さは、必ずしも一致しません。[3]

また、痛みが長く続く過程では、刺激に対する神経系の反応が高まり、以前より痛みを感じやすくなる場合があります。[4]

これは長く痛む人すべてに同じ変化が起きるという意味ではなく、「硬さを感じやすくなる」ことを直接説明するものでもありません。

以上を踏まえ、この記事では「コリ」を、筋肉だけでなく、周囲組織、局所の代謝環境、刺激を受け取る神経系など、複数の側面から捉えます。これは単一論文の定義ではなく、Yejiによる統合的な整理です。

コリと「張り」「痛み」は同じものか

コリ、張り、痛みには、医学的に明確な境界があるわけではありません。

日常的には、コリは限られた場所にある硬さや重さ、張りは広い範囲に感じる突っ張りや緊張、痛みは不快感が強く生活に影響する状態、といった使い分けがされることがあります。

しかし、実際には互いに重なります。

コリがあっても痛くないこともあれば、触れて硬くなくても、本人が強い張りや痛みを感じていることもあります。

そのため、触れたときの硬さだけで、その人のつらさを判断することはできません。[3]

なぜ、触ると硬く感じるのか

身体に触れていると、周囲とは異なる場所を感じ取ることがあります。

例えば、押し返してくるような硬さ、組織が動きにくい感じ、指が滑りにくい場所、触れると痛みや違和感が集中する場所、反対側とは反応が異なる場所などです。

これらは病名や診断そのものではありません。しかし、施術を組み立てるための手がかりにはなります。

触れて感じる硬さには、負荷への対応や、痛みを避ける動きが関係している可能性もあります。ただし、これは診断ではなく、施術を組み立てる際に検討する仮説の一つです。

硬い場所をすぐに「悪い場所」や「原因」と決めず、その場所への刺激で何が変わるかまで確認しながら、見立てを調整します。

なぜ、同じ肩こりでも人によって違うのか

同じように肩がこっていても、少し休めば軽くなる人もいれば、長く残る人もいます。

施術を受けたときにも、局所への刺激ですぐに変化する、その場では変わるがすぐ戻る、肩以外の状態を確認すると変化する、硬さは残っていてもつらさは減る、など反応には違いがあります。

Yejiでは、この反応差を考えるため、経過、日常で繰り返される負荷、睡眠や疲労、頭痛や食いしばりなどの併存症状も確認します。

これらを症状差の確定原因とみなすのではなく、施術の組み立てを考えるための臨床評価項目として扱います。

コッているところを、強くほぐせばよいのか

つらい場所を押したり揉んだりすると、一時的に軽く感じることがあります。

自分が「ここがつらい」と感じている場所へ刺激が入ることには、身体感覚の変化を確かめるという意味があります。そのため、局所への刺激自体が間違っているわけではありません。

ただし、刺激は強ければ強いほどよい、と決めることはできません。

刺激の強さは、その人の反応を見ながら調整する必要があります。刺激のあとに痛みや緊張が増えるなら、その強さがその人に合っているとは言えません。

これは、強い刺激が一般に防御性緊張を生むという因果を述べるものではなく、刺激後の反応に基づく臨床上の判断です。

Yejiでは、コリをどう見ているか

Yejiでは、コリを単なる「取り除くべき硬いもの」とは考えていません。

どこにつらさを感じているか、どのような硬さや動きの変化があるか、いつからどのように続いているか、局所への刺激で何が変わるか、身体全体の状態とどう関係しているかを確認します。

そのうえで、局所への刺激を中心にするのか、周囲の状態や身体全体の緊張を含めて考えるのかを判断します。

最初から原因を一つに決めるのではなく、仮に状態を捉え、必要な刺激を加え、身体の反応を見て、見立てを調整する、という過程を重ねます。

コリを一つの原因として固定せず、状態として扱い続けるために、「見立て」が必要になります。

まとめ

身体のコリは、単に筋肉が硬くなった状態だけを指すものではありません。

コリは病名ではなく、硬さ、張り、重さなどを含む日常的な表現です。

主観的な硬さや痛みと、測定された筋肉の硬さは必ずしも一致しません。

筋膜などの周囲組織、慢性筋痛で報告される局所代謝環境、痛みへの神経反応は、それぞれコリを考える際の手がかりになりますが、一つの原因としてまとめることはできません。

触れて硬い場所が、そのまま原因とは限りません。局所への刺激に意味がある場合もありますが、刺激後の反応を見ながら調整する必要があります。

コリを一つの原因へ固定せず、身体に起きている状態として丁寧に見る。それだけでも、身体の見え方や施術の組み立て方は変わります。

よくある質問

コリとは、簡単に言うと何ですか?

肩や首などに生じる硬さ、張り、重さ、動かしにくさをまとめた日常的な表現です。医学的に一つの病名として定義された言葉ではありません。

コリは老廃物のかたまりですか?

コリを「老廃物のかたまり」と説明することはできません。慢性筋痛の研究では一部の局所代謝物の差が報告されていますが、日常語としての「コリ」すべてに同じ変化があるとは言えません。[1]

触って硬ければ、症状も強いのですか?

本人が感じる硬さや痛みと、測定された筋肉の硬さは必ずしも一致しません。触れた硬さは手がかりの一つですが、それだけでつらさを判断することはできません。[3]

強く揉めばコリは取れますか?

一時的に軽く感じることはありますが、強く刺激すれば必ず改善するわけではありません。刺激後の痛みや緊張など、その人の反応を見ながら強さを調整します。

首や肩のつらさが長く続く方へ

同じ場所を繰り返し揉んでも戻ってしまう場合には、硬い場所だけでなく、その状態が続く条件を確認する必要があります。

Yejiでは、局所の状態と身体全体の反応を見ながら、施術の組み立てを考えています。

症状が強い場合や、医療機関での診断・治療が必要な場合は、適切な医療機関へご相談ください。

参考文献

[1] Gerdle et al. Chronic musculoskeletal pain: review of mechanisms and biochemical biomarkers as assessed by the microdialysis technique. Journal of Pain Research. 2014. DOI: 10.2147/JPR.S59144. Paper ID: P0042.

[2] Suarez-Rodriguez et al. Fascial Innervation: A Systematic Review of the Literature. International Journal of Molecular Sciences. 2022. DOI: 10.3390/ijms23105674. Paper ID: P0043.

[3] Haueise et al. Is musculoskeletal pain associated with increased muscle stiffness? Evidence map and critical appraisal of muscle measurements using shear wave elastography. Clinical Physiology and Functional Imaging. 2024. DOI: 10.1111/cpf.12870. Paper ID: P0044.

[4] Woolf. Central sensitization: Implications for the diagnosis and treatment of pain. Pain. 2011. DOI: 10.1016/j.pain.2010.09.030. Paper ID: P0009.

※本記事は、身体の状態や鍼灸に関する一般的な考え方を紹介するものであり、特定の症状や疾患に対する治療効果を保証するものではありません。症状が強い場合や医療機関での診断・治療が必要な場合は、適切な医療機関へご相談ください。

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